怒らない女

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「俺には右半身が不自由な母とアルコール依存症ぎみの父がいる。その両親は栃木に住んでるんだが都内に呼ぼうと思ってるんだ。希里子は仕事をしながら朝や夜、休日に親の面倒をみてもらいたいんだ」 「みんなで住むってこと?」 「そうだ。実家は貸すか売るか考えてたんだが固定資産税もかかるし売ろうと思う」  話し合っているとざるそばが来た。紀里子は箸をつけない。慎吾の注文が来るのを待っているのだろう。 「私、頑張って慎吾さんの親の面倒をみる」  これであとは美紀と別れればいいだけだ。慎吾は微笑んだ。  鴨せいろが来た。慎吾が食べ始めると希里子も食べ始めた。  一年後、慎吾は両親を呼んで紀里子と四人で暮らしていた。マンションは2LDKのものを中古で買って、希里子と慎吾の寝室、両親の寝室を割当てた。都内だったので高い買い物だったが、栃木の家も売れたし、希里子は貯金もしていた。容姿さえ目を瞑ればいい女だ。
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