アンガーカシェ

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アンガーカシェ

《怒りを抑える魔法の化粧品、アンガーカシェ!好評販売中!》 テレビCMで流れるとともにネット、ラジオ等の媒体でそれは瞬く間に広がった。 何せ人間の煩悩の一つとされる怒りが抑えられる画期的な化粧品が登場したからだ。社会人女性にはもちろんのこと、化粧に興味のない女性や若い女の子にもヒットし、売り切れ続出の大ブレイクの人気商品となった。 愛知 かなえ。24才独身の看護師。 かなえもアンガーカシェの魅力に引き付けられた一人である。 仕事柄、怒られやすく怒りやすい環境にいる彼女にとってこの化粧品はまさに救世主(メシアシナ)。 今日も彼女はアンガーカシェでメイクをして出社した。 アンガーカシェは不思議とかなえの気持ちを明るい気持ちにしてくれた。 CMも可愛く、積極的なプレゼンに購入意欲が一気に加速する。 何よりも怒りを抑えてくれるメイクに世の女性は歓喜した。 本当にアンガーカシェをしていると怒らないですむのである。 イライラしないので仕事が要領よく、効率よくこなすことができた。 これはかなえだけでなく、口コミや評価を見ていても結果は明らかだった。 どの人もコメントにアンガーカシェを絶賛しており、オススメ度もMax。 女性に聞けばアンガーカシェを知らない人はいないというほどのブームになった。 そして、ブームから数年たったある日。 かなえはある異変に気付く。 今日もかなえはアンガーカシェで出社し、無事に仕事を終えて帰宅した。 そして、洗面所に行きメイク落としで洗顔をした。 かなえは仕事疲れによる目の錯覚かと思った。 (……顔が変わってる??) しっかりと素顔を見ると顔全体の色が薄茶色の日焼けしたかのような色になっており、表情も少し引きつった怒りの醜い顔になっていた。 (まさか……まさか……!!) スマートフォンでアンガーカシェを調べるとぽつぽつと悪評のコメントや感想が目に入った。 ただ、中にはそんな変化はないといったコメントもあり、顔の変化は明らかにアンガーカシェが原因とは言い切れなかった。 (顔が醜くなっていくのは嫌だ……!!) その思いでかなえは醜くなった素顔にアンガーカシェをメイクし続けた。 醜くなっていく顔にさらに泥を塗っていくかの如く。 職場でのイライラや怒りの収まり具合は相変わらずなので、おかしいと気づきながらも時は過ぎていった。 そして、かなえにとってかなりの大事件が起こってしまう。 今日の仕事は患者様の入浴介助。 入浴介助なので当然、熱気や湿気はムンムンとして暑いので、化粧がとれてしまうのは時間の問題であった。 次々に介助をこなし、最後の患者様というところまで来ていた。 最後の患者様は、すぐに人の悪口や文句を言う「看護師泣かせのかっつん」という異名をつけられた人だった。(本名 石川 勝之) かなえはかっつんをペアの先輩看護師と一緒に介助ベッドに運んだ。 「お湯加減はいかがですか?」 と、かなえは優しく言ったつもりであったが 「なぁーにが!いかがですか?だぁ!!貴様の醜い顔で言われてもちっとも気分なんてよくならんわい!!!!」 と、かっつんはいつもより酷い悪態をついて手足をばたつかせていた。 「こんな化け物に手伝いなんか頼んでないわい!!」 (……。) かなえの頭の中は真っ白になっていた。 化粧は見事にとれ、醜くなった顔が露わとなっていた。 ペアの先輩も驚き「愛知さん!?大丈夫!?」と叫んでいた。 (私の……顔、そんなに……叫ぶほど文句があるのかあぁぁぁ!!!!) ……プッチーーーーン!!!! ――その後の事件は、師長と先輩看護師から話を聞かされた。 かなえは怒りのあまり、かっつんに負けず劣らずの暴言を吐き、浴室の物という物を投げまくり、破損。かっつんや他の患者様には怪我はなかったが、あのかっつんも震え上がるほどの怒りという怒りを爆発させて失神したというのだ。 かなえは全身から汗という汗が吹き出し、顔面蒼白になった。体を委縮させ迷惑をかけてしまった人たちにひたすら謝りに病室へ行った。師長も一緒だったこともあり、事は大きくならずにすんだのだが、かなえは仕事がやりずらくなってしまい本日づけで辞めてしまった。 「あぁ……。オワッタww」 かなえは半笑いのまま、放心状態でとぼとぼと帰宅した。 心の中ではウジウジしながらも、過ぎてしまったものは仕方ない!切り替えようとかなえは己を奮い立たせた。 気持ちが沈んだ時は大好きな香りのする高級バスボールを贅沢に使って入浴するに限る。ということで、日々の疲れを落とすように2時間ほどお風呂に浸かっていた。 「ほわぁ~。良いにおい。」 バスボールの香りをくんくんしながらふと洗面所の鏡を見るかなえ。 (……あれ?) なんと、かなえの顔はアンガーカシェを使う前のすっきりとした可愛い素顔に戻っていた。 「っしゃああぁーーーー!!」 顔が元に戻った喜びと、怒りを押さえつけていた分の爆発を思い出すと結構心地よかったことを思い出す。 「うしゃああぁぁーーーー!!」 今までの感情を整理するかのように、かなえはジャージに着替えて思いっきり走り出した。 かなえの表情はとてもにこやかで晴れやかだ。
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