止まれない列車

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止まれない列車

 轟々と吹雪の轟音が耳に叩き付けられる。猛烈な勢いで雪も顔面に叩き付けられ、凍てつく寒さは指の先から感覚を惑わせる。  ゴーグルはものの数秒で雪に覆われ使い物にならない。手はかじかみ碌に動きそうにないが、毎度のことで問題はない。  不規則に触れる中、壁に張り付いての作業だが、突風が吹き荒れているというのに命を繋ぐのは命綱一本のみ。  更に悪いことに、前方から警笛が吹雪の轟音に紛れて微かに聞こえてきた。 「……上等だ」  やってやろうじゃないか。生き残るために。  溶接機を力いっぱい握り締めて覚悟を決める。  俺はタカハシ。最下層の貧民。車輌整備部門、電気設備整備隊員。  くそったれな列車を整備する、整備士だ。
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