止まれない列車

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「フジグロ!! 部品をくれ!!」  命綱とピッケルで体を壁に固定し、タカハシはバディに部品を渡すように叫びながらロープを引いた。ロープの先、車輌の屋根にいたフジグロはロープが引かれたことを感じ取り、部品の入ったカゴが括り付けられた紐をゆっくりと垂らし始めた。 「もう少しだ! 待ってくれ」  あと少しでタカハシの手に届く。そんな時に、不運がフジグロを襲う。車輪が岩に乗り上げて激しい揺れが二人を襲ったのだ。タカハシはピッケルが抜け、宙ぶらりんになるだけで済んだが、揺れと共に宙に投げられ上突風が吹きフジグロはあっという間に投げ出されてしまった。後方へと勢いよく消えていったフジグロ。 「うあああああああああああ!!!!!」  フジグロの断末魔が、吹雪に搔き消される。 「くそ!!」  フジグロを振り返ることなく、吹雪に目を凝らすタカハシ。目的の物を見つけると身を乗り出して掴み取った。それは、フジグロが命懸けで渡そうとしていた部品であった。 「うあああああああああああ!!!!!」  断末魔が聞こえた。エレベーター付近、命綱を管理するリーダーたちの下にもフジグロの断末魔が聞こえて来た。 「誰が落ちた!?」 「フジグロです、フジグロの命綱が切れました」 「チクショウ! タカハシは無事か!? 他に被害は!!」  「今のところ無事です! 被害もないです」 「警戒灯を付けろ、警戒音鳴らせ!! これ以上死なせてたまるか」  リーダーは鬼気迫る勢いで怒鳴った。 「活動限界も近い。引き揚げの用意を」  今は氷河期真っただ中で気温はマイナス40度を下回る。劣悪な防寒具ではそう長く作業は出来ない。  懐中時計を握り締め、無事を祈るリーダーであった。そんな時だった、前方から良くない状況を知らせる警笛が響いたのは。
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