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配電盤を、よく動かない指先に鞭打って動かすこと数秒。しばししてランプが灯った。修理成功である。
「……ふう」
タカハシは連絡も兼ねるロープを引くが、反応がないことを訝しみフジグロのことを思い出した。
フジグロがいないと言うことは、リーダーたちに意思を伝える存在がいないことを示す。ということは誰も引き揚げてくれないということだ。自分で登るには時間が圧倒的に足りないし、何よりももう手足の感覚が喪失してきた。絶体絶命の窮地に、タカハシも焦りを浮かべる。
何かないかと、必死に周囲を見渡すタカハシの視界に部品が入っていたカゴが目に入った。確かカゴの紐は巻き上げ機と繋がっていた筈。ヒトを引き揚げるにはパワーが足りない。しかし、物を引き揚げるのには十分。
ヘッドランプを外すとカゴに固定して紐を思い切り引っ張った。そして離すと、勢いよく巻き上げられランプごとカゴが遥か上へと消えていく。既に全員退避していたら無駄な行為だ。だが、タカハシは誰かいることに懸けていた。
「頼むッ届いてくれ!!」
タカハシの祈りは、果たして。
「……時間だ。退避する」
さすがにもう無理だと判断したリーダーは退避を宣言した。が。
「――ッ、タカハシか!? 引き揚げるぞ、フルパワーだ!!!」
タカハシの合図を目にしたリーダーは、引き揚機に慌てて駆けつける。レバーを目一杯手間に引くと、引き揚機はけたましいモーター音を轟かせると凄まじい速さで命綱を巻き始めた。
「リーダー!!!!?」
リーダーに悲鳴が飛ぶ。目に見えて前方車輌が傾き始めた。直にリーダーたちの車輌も急勾配に傾くだろう。
だが、リーダーはそれを意図的に無視をする。
「――今だ!!!!」
レバーを奥に一気に倒す。モーターブレーキが掛かり摩擦で火花が散る。神業的な塩梅で、モーターにぶつかる寸前で減速して事なきを得たタカハシとリーダーは慌ててエレベーターに飛び乗った。
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