止まれない列車

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「ギリギリだったな」  とリーダーは言う。 「間一髪でしたが、何とかやり終えました」  タカハシは帽子を脱ぎ捨てて、儚げにに笑った。脂ののった浅黒い肌と、短く切り揃えられた髪が露わになる。 「フジグロのことは残念だったな。相性良かったろ? 事前に運行状況を詳しく聞くべきだった」 「いいえ、おやっさんは自分の職務を果たしました。……フジグロも誇りに殉じれて本望だったと思います。最期の最期までフジグロはカゴを俺に渡すことだけを考えてました。アイツには勿体ない死に様です」  辛そうな顔で語るタカハシを、リーダーは肩を叩いて労った。 「そうか。お前には、二回分休暇をやる。よく休め」 「……。――」  エレベーターは、人を乗せてひたすら降り続ける。妙な真似をしない様に、した警備員が取り囲んでいる。層を隔てる度に光源が減り、空気は重く湿気を多分に含んだ劣悪な物となる。暖房も効きにくい、列車社会のどん底。  電気ではなく、油による灯りの臭いが、鼻につく。嗅ぎなれた、底辺の薫りだ。  だが下層出身者にとって紛れもない故郷。帰るべき家。  あまった廃材や、もっと上の層から捨てられた廃材を活用して形成された貧民街。英雄たちを乗せた箱舟は、そんな貧民街の中心に降り立った。 「気高さは美徳だが、お前は背負いすぎるぜ英雄。見ろ、これがお前が守ったふるさとだ」  エレベーターが床に降り立ち、その周囲を、帰還した英雄を歓迎する下層貧民が取り囲む。それを煩わしく思った警備員が鐘を鳴らし、あらん限りの怒号で蹴散らすのもいつもの光景だ。 「邪魔だ!! 早くエレベーターから降りろ、ドブネズミどもめが!」 「今日も配線を直したんだろ! アンタはどん底の誇りだよ」 「おお、今回も生きてやがる!!! さすがは英雄様だな。おい、せがれども。感謝しろよ、オレらの列車が停まらずに走り続けれるのも、ああしてあいつ等が外に出て車輌を整備してるからなんだ」  エレベーターから追い立てられたリーダーたち電気設備整備隊を、というよりタカハシ個人を目当てに野次馬が集まる。 「みんながお前に感謝してる。俺も、アイツもな。だからあまし自分を責めるな」 「……俺は」  リーダーの励ましに、タカハシは反論しようと口を開いた。しかし、それは閉ざされることとなった。 「あ、あの息子は。息子の姿が見当たらないのですが、御存知ないですか? 私はフジグロの母です。息子は、英雄様と仕事を組めるるなんて安泰だと言っていたのですが、息子を知りませんか?」 「――俺がお話しします。お母さん、どうぞこちらに」  フジグロの安否を問う、母と名乗る女性チャオの言葉にタカハシは応えようとしたのだが、その間にリーダーが割り込んできて話を遮った。 「ここは俺に任せてお前はもう休め。ひどい顔だ」  そう小声で言い残すと、リーダーはチャオを連れ奥へと歩き始めた。  タカハシは、その二人の姿を遠目に眺めると、踵を返し別方向に向かう。 「そ、そんな。息子がッ!! 私の息子がァああぁああ!!!!」  後ろから聞こえてくる悲鳴に蓋をして、タカハシは自分の住む掘っ建て小屋へと向かうしか
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