正義の三鷹―せいぎのみたかー

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 お腹減ったなぁ。 急いで彼に電話する。 「ねぇ、今日体調悪いんだ、お家デートじゃダメ?」 「ふざけんな! お前が金出すって言うからわざわざ出てきてやってんだよ。ボコられたくなきゃすぐ来い」 前の彼氏ならすっ飛んで来たんだけど。 溜息をつき、冷蔵庫を開ける。 ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ポン酢、みりん、麵つゆ、ナンプラー。プリック・ポン、リリコイドレッシングにん~、う~、シーユー・カオ、ムオイ・オト・トム言えた――っ! 調味料は歴代彼氏のプレゼント。 みんな初めてお部屋に呼ぶ時おねだりしたものだ。 あんまりくわしくないんだけどね。 これとこれ、冷蔵庫に入れてよかったんだっけ~とか。 あいつにもらったのはナンプラー。 どの瓶にも男たちの名前が書いてある。 仕方ない、出前頼もう。 のウー〇ーイーツは秒で来る。 「三鷹(みたか)さ~ん! お届けに上がりましたー!」 「はーいご苦労様で~す♡」 縦に長ーい出前の箱。ふたを開ければさっきTELした人間の彼。 手っ取り早く服を()ぎま~す。 「ちょっと待て、何の真似だよ」 「最後のばんざい」 「あ?」 「知らない? めっちゃくちゃ有名な絵なんだけど」 「最後の晩餐だバカ野郎」 ナンプラーをかけまーす。 「ちょっと待てウプッっおいこら」 私も服を脱ぎ、生まれたままの姿に戻る。 「うわあああっ化け物――ッ!」 いっただきまーーーーーーーーーーーーーーーーすっ! 「ぎゃあああああああ助けてぇぇっ」 「亜希絵(あきえ)ーーーーーーーーーーーーーーっ!」 ドアをけ破る勢いで、昔の男が入って来た。 「たのむっ! これ以上俺を苦しめないでくれっ」 「うるさいこの大浮気者(だいうわきもの)」 「だから誤解なんだって!」 一ヶ月前、こいつは人間のすっごい美人と手を取り合い、見つめあい、どう見たって抱き合っていた。 「あの日が何の日だか憶えてるよね? 仕事だって言って、あんたよりにもよって私にプロポーズした日にあんな女と」 「だからだよ」 意味がわからない。 「君に最高のごちそうをプレゼントしたかったんだ」 大浮気男は私の足元にひざまずき、某有名ゴシップ誌のページを差し出してきた。 ――ウン十人の男を手玉に取った美しすぎる保険金殺人犯。 大浮気男がホテルのラウンジで抱きしめていた女……。 「裕二(ゆうじ)‥‥‥」 「おいで、亜季絵」 ひしと抱き合う二人。 「ごめんなさい。亜希絵確かめもせずに。でも、でも、すっごくショックで」 「いいんだ俺も悪かった。サプライズしようとちまって」 「ううん? だって裕二はいい妖怪(ひと)だもん。嘘なんかつき慣れていなかったよね? じゃ、仲直り記念にふたりで食べよっか。顔だけホイホイのDV男ナンプラーがけだよ!」 「ひょーっうっまそーぅ♪」 「ごめんなざいごめんなざいもうじばぜんから――っ」 DV男の声がむなしく響き渡る。 二匹の妖怪は仲睦まじく、結婚記念の料理を平らげたのだった。
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