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途中で浅井を拾い、SHOPが立ち並ぶ一角までやって来ると地下駐車場へと車を止めた。
「浅井、どこらへん回るの?」
「そうだな、取り敢えずルミネから攻めてぐるっと回るわ。いい?」
「おれはいいけど」
護衛として店を決めてた方がいいんじゃないかと坂口さんに視線を送ればコクリと頷かれた。
「じゃあ行こうか」
地上に出るエレベーターに乗るとボタンを押した。
「何買うか決めてんの?」
「まだ。春物って買うのムズくない?」
「あー確かに…」
冬ならマフラーだの定番があるけど、春物って考えても思い浮かばないな。
「無難にアクセとかさぁ」
「あ、就活だしネクタイ……ゴメンもう必要なかったな」
田崎くんはもう既に就職してるようなもんだし。
「坂口さん、仕事でネクタイって必要あります?」
おれの前を警戒するように歩いてた坂口さんに足早に近づいて浅井が問いかけた。
「ネクタイ…か。田崎は会社に勤めると思うから必要なんじゃないか?」
「え…田崎って会社勤務?」
「たぶんそうなると思いますけど…」
語尾を濁しながら坂口さんがチラッとおれに視線を向けた。それってさおれが匡さんの会社に就職するのが前提だよな?
話してる内にルミネに着くと、メンズ売り場を目指してエレベーターに乗り込んだ。
「なぁ服送るのってどう思う?」
「んーそれって自分好みの服って事?それとも似合いそうなの?」
「…着てほしいヤツ、かも…」
ちょっと照れたようにはにかむ浅井が可愛い。
「それってさぁ、脱がしたいって意味もある?」
ニヤニヤと笑いながら白瀬さんが話に入ってくる。
「うぇっ!?イヤイヤそんなんじゃ…」
「白瀬、アホみたいな事言ってんなよ。ほら着いたぞ」
ペシッと白瀬さんの頭を叩いて、坂口さんがエレベーターから出ると、警戒するように目を眇めた。
一瞬で感情を切り替える姿は、ちょっと見惚れるくらいには格好いいと思う。
「行こうか、浅井」
「うん」
人気のSHOPを回りながら、あーでもないこーでもないと服を手にしては戻してく。数軒回った所で、
「あっこれ!これどう?」
浅井が手にしてたのは、服でもなく手帳カバーで。
「コラボ商品だって!格好よくね?あ、でも手帳は使わないか…」
「おれはいいと思うけど。手帳使う男って格好良くないか?」
「だよな!うんこれにしよう」
嬉しそうに笑う浅井がレジに向かうのを見送って、ブラリと店内を見回ってると、途中で白瀬さんが坂口さんに服を充てがい始めた。
「やめろって、そんなの着ねぇよ」
「ね、平井さん。坂口にコレ似合うよね」
そう言った白瀬さんの目にめちゃくちゃ圧を感じて…
「…あぁうん。似合うと思う…」
そう言うしかないよなっ!?おれ悪くないだろ!?
「ほら平井さんも言ってんじゃん」
「だからって今は勤務中だろうが」
「あ、あの別に大丈夫だよ。欲しいものあったら買ってきていいしさ…」
おれが言うなり白瀬さんが服を抱えてレジへと走ってく。
「おいっ!クソっあのバカはっ」
舌打ちしながら坂口さんが白瀬さんを睨んで、すみませんとおれに頭を下げた。
「おれがいいって言ったんだし。坂口さんも何かあればさ…」
「いえ、おれは大丈夫です」
「そう?」
真面目なんだよなぁ。坂口さんと白瀬さん足して割るとちょうどいい感じかも。
「「お待たせ〜」」
満面の笑みの二人が戻ってくると、坂口さんは白瀬さんを捕まえてクドクドと説教を始めた。
「坂口さん、店内だし声…」
「あ、すみません…」
「ううん。あのさお昼過ぎてるしご飯食べない?」
「それ賛成!ほら坂口さんも怒りを抑えてさぁ」
「……分かった」
すっごい渋々なのが丸わかりの顔で坂口さんが一歩後ろに下がると、白瀬さんがペロッと舌を出して笑った。
白瀬さんの味方をしたい訳じゃないけど、その…何ていうか腹黒さが怖いって言うかさぁ。
あの服、絶対坂口さんは着せられるんだろうし、それを嬉々として脱がす白瀬さんを想像したら、坂口さんの顔をまともに見れなくなった。
「さ、坂口さんは何食べたい?」
「おれですか?」
「うん。いつも世話になってるしさ…」
決してお詫びとかじゃないからな。労ってあげたくなっただけだからっ。決して夜の為に英気を養うとか、そんなんじゃないからっ。だから坂口さん…美味いもん食って帰ってよ…。
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