プリンの恨み

1/11
47人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 私は激怒した。  必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。  思わずメロスの冒頭を(そら)んじるほど、私の魂は怒りに満ち満ちていた。  目の前が真っ赤だ? そんな生やさしいものではない。私がその扉を開ける時、天国が待ち構えていると思っていた。けれどもそこにあったのはただ、地獄であった。  嗚呼、なんという急落か。私の心は悲しみに咽び泣き、慟哭する。そして気がつくと私の両のまなこからは神の嘆きの如く滂沱と水が溢れ流れ落ち、その口はまさに地獄に繋がっているとしか思えないほどの怨嗟が迸っていた。  ふう、落ち着け落ち着け。急いては事を仕損じる。まずは現況確認だ。煮え繰り返る臓腑を抑えて睨みつける。詰まった冷蔵庫の中身を全部とり出して一つ一つ調べた。  それでも、やはり、ない。  昨日、三時間並んで買ってきたデパート催事場、北海道大物産展1日限りの、しかもお一人様四個までの限定プリン。  『十勝の風薫る天国への梯子、半生ふわとろ極上プリン』  それがない。確かに昨夜、ここに奉られたはずだ。けれども、ない。  畜生ッ‼︎  怒声と共に思わず隣のシンクに手の甲を叩きつける。ステンレスにしたたかに打ち付けられた左拳に熱と激痛と痺れが走ったが、そんなものより張り裂けんばかりの心の痛みの方が重症で、私を死の淵に誘うのだ。  だが。だが私はあえて、あえて過去を遡ろう。一体何があったのか。その可能性を絞り切るために。たとえ結論は見えていたとしても。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!