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会社に入って数年。
ある日、部長に呼び出された僕は、昇進を告げられた。
「これからも、期待しているよ。部下を持つというのは難しいだろうけれど、頑張ってくれたまえ」
「はい、頑張ります」
こうして、僕には初めての部下ができた。
やる気と希望に満ち溢れて踏み出した管理職人生。
だが、僕は早々に躓きを感じていた。
部長の言うとおり、部下への接し方に苦労していた。
高圧的に出てはいけない、と思うとどうしても部下相手にしり込みをしてしまう。
思い込みかもしれないが、ちょっと舐められているようにも思え、僕は内心焦りを感じていた。
悩んだ末、僕は同期で同じように出世している広瀬という男に相談を持ち掛けた。仲がいいわけではないし、一時期は出世争いをした間柄でもある。結果的に彼が一足先に出世したわけで、つまり部課持ちとして先輩にあたるわけだ。今はもう争っていないし、ここは利用させて貰うしかない。
「……というわけで、苦労しているんだよ」
「まあ、初めはそんなもんだろ。自分が部下だった時のこととか考えてさ、やってくしかない」
「違いない。だけど、怒り方がよくわからん。罵倒しちゃダメってのはわかるんだけど……」
「それな。あと叱る、な」
「その違いすらさっぱりだ」
僕の言葉に広瀬は一冊の本を取り出した。
「これは割と役に立ったよ」
「叱り方の手引き?」
「まあ、騙されたと思って読んでみろ。俺は、それを実践してそこそこうまくいってる」
「ふうん……」
僕はその本を広瀬から借りて、常に持ち歩くことにした。
そして、時間が少しでもできれば、読むことに決めた。
例えば通勤中や就寝前。
場合によっは、仕事の合間などでも。
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