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12月3日、野村の36歳の誕生日。律子は17時の早番で仕事を上がって帰宅する予定でいた。ささやかだがお祝いをしてあげたいと思い、何日か前にプレゼントのネクタイも購入していた。野村が復職する時にそのネクタイを身につけてくれたらと考えてのことだ。 キヨ子は何事もなかったかのように過ごしている。海を見たことも覚えていないかもしれない。1週間の猶予はできたが、今度こそは本当に別れなければならない。すべてを終わらせなければならない。 クリスマスシーズンを迎えた街には華やかなイルミネーションが溢れている。百貨店の中も同様にきらびやかな装飾で彩られた様々なイベントが開催される。 野村にはそんな輝いた景色が似合う。その世界へ帰してあげよう。自分の孤独はなんとかなる。律子は心に吹く風を感じながらも充実した気持ちでいた。
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