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接客が入り17時には上がれず、通常の勤務時間の19時半に店を出た。ショートケーキを3個買って帰ると、野村とキヨ子はまだ夕飯を済ませていず律子の帰りを待っていた。 「遅くなってごめんなさい。今日は野村さんの誕生日だから早く上がるつもりでいたのにお客様がいらして時間がかかってしまって」 「そんな気を使わないでください。お腹すいてますよね。今夜はシチューとチキンソテー作ってみました。佐々木さんチキン好きだから」 律子の胸がズキンとする。母が元気な頃に誕生日を祝ってくれた日を思い出していた。 キヨ子は黙ってテレビを見ている。ここ数日ほとんど喋らない。 「キヨちゃんただいま。今日は寒かったよ」 無反応だ。 「ほとんど口きかないんですよ。おとなしくて助かってますけど」 「来週にはいよいよ本当にお別れですね。今夜は3人で野村さんのお誕生日のお祝い会しましょう。野村さんはビール好きなだけ飲んでください。二日酔いになってもかまいませんよ。明日は私休みなのでキヨ子さんのお世話できますから。あとこれほんの気持ちだけど……」 用意していたネクタイの包みを渡す。 「え? なんですか? もしかしてプレゼント?」 野村が驚いている。 「間もなく会社に戻るでしょう。よかったらその時にと思って」 「ありがとうございます。佐々木さんにはなんてお礼を言ったらいいのか……」 少しだけ涙ぐんでいる。律子もつられて泣きそうになる。 「あともう少しです。頑張りましょう! 着替えてきますね」 「あ、着替える前に写真撮りませんか? キヨちゃんと俺と3人で暮らした思い出に」 「え、でも証拠は残さない方が……」 「佐々木さんのスマホに1枚だけ。何年かたって懐かしかったと思える日が来るように」 「じゃあ1枚だけ……」 野村がキヨ子のいるテレビのある部屋のテーブルの上に、たまっている新聞紙を重ねて置いている。 「ここにスマホを立てかけてセルフタイマーで撮りましょう」 律子がバッグからスマホを取り出す。 「キヨちゃん写真とるよー。こっちむいて。佐々木さんセットできたら声かけてください」 10秒後にシャッターがおりるようにセットする。 「あと10秒です」 「え!? 早ッ! キヨちゃん、キヨちゃん!」 バタバタしながら野村も律子も笑顔になった。一度きりのシャッターチャンス。道の終わりはもう目の前だった。
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