1.暗夜

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「腹へってる?」 「そうね」 「どこかで食う? どこがいい?」 「どこでもいいよ」 都内のターミナル駅にある百貨店の婦人服部門で課長職として売場責任者を任されている私とその担当バイヤーの蓮。 6年前30歳の節目に開催された同期会で出会った。それまではお互いの存在を知らないと言ってよいほど接点がなく、つきあって3年たった頃に偶然にも仕事上での関係も近くなりこうして密かに会っている。 車は1kmも走らない距離にある安さが売りのファミレスの駐車場にとまる。会社の人間は絶対に来るはずはない。ましてこんな遅い時間に。 「ここでいっか」 はじめから決めていただろうに今思いついた風をよそおっている。本人はバレていないつもりだろうがすべてお見通しだ。席に通されメニューを広げ悩むふりまで芝居じみている。 「俺も夕飯まだなんだよ。ハンバーグセットにするわ。美奈子(みなこ)は?」 「同じでいいよ」 10分も待たずにハンバーグセットは運ばれてきて食欲をそそる匂いがあたりに漂う。いつものように人参をよけて黙々と食べ始める様子を少しの間見ていると 「なんだよ、何見てんだよ。早く食べろよ、腹へってんだろ?」 と、三白眼気味の目つきで言ってくる。機嫌が悪い時よくこの表情になる。 (早く食べてどうしたいのよ、ハッキリ言えばいいのに) 「ねえ、食べ終わったら海に行かない? 近くじゃなくて横須賀あたりまで行きたいな」
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