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息苦しさと圧迫感で目が覚めた。車のエンジンは止まっている。
「ちょ……重い」
蓮が全体重をかけて覆いかぶさっていた。
「ねえやめて苦しいよ」
一旦離れるも再び体の上に乗ってくる。シートは完全に倒されている。
「やめて、離れて! 今日は嫌!」
「なんだよ」
「ごめん……すごく疲れてるの」
「だったらこんなとこまで来る必要なかったじゃないか。どれだけ走ったかわかってんの?」
「それはありがとう。でも今日はしたくない。海見て帰ろう」
「ふざけんな」
「え?」
「ふざけんなって言ってんだよ!」
蓮が抱きついて顔を近づけてくる。それから逃れようと必死にもがく。
「やめてよッ! 京野にもこんなに強引なの!?」
抱きついていた腕の力が緩くなる。
「わかったよ。じゃあひとりで夜の海でも堪能すれば?」
「そうする」
乱れた服のまま車から降りる。ここはどこ? 潮の匂いがする。小さな漁港だ。船置き場には何艘もの小型の舟がとまっている。浅瀬には静かな波が打ち寄せている。
エンジンのかかる音がしてふり向くと車はもう走り出していた。遠ざかって行く赤いSUV。ポツンと私の仕事用のショルダーバッグが放置されている。
(嘘でしょ……)
軽いジョークだと思った。半分は本気でムカついていたとしてもすぐに戻ってくると信じていた。
(このあたりをぐるっと走って10分? 15分? わざと怖がらせるために30分?)
こっちこそ焦らせてやろうと思って隠れる場所を探した。戻ってきた時に私の姿がなくうろたえる様子を陰から見てやろう。どのタイミングで出て行こうか考えると胸が踊る。あまり怒らせると今度は本当に置いて行かれそうなのでそのあたりのさじ加減は必要だ。
蓮はよくキレる。そして冷たい。
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