想定外の出来事

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 親なら、不幸の事ほど簡単には事実を受け入れたくはないだろう。  頭と心がすぐには繋がらないのも無理はない。  朝まで生きていた娘が、仕事を終えても帰ってくる気配がなくて、念のため、警察に行方不明捜査の依頼をしていたのだ。  夜中に遠慮なく電話がかかってきて、期待したのは元気な姿で発見されたという内容だつたのに、期待とは裏腹に亡くなった事実を告げられたのだから。  泣いていても仕方ないとは思っていても、これまでの事が走馬灯のように晴美の頭の中で駆け巡る。  陣痛が始まって力んで助産師に取り上げられて産声をあげた日から、つい今朝までの柑奈の姿が色鮮やかに思い出しては、もうこの世からいなくなる柑奈のあの姿を思い出して、再び嗚咽しながら晴美は泣き出した。  そんな晴美の肩をそっと抱き寄せて、和幸は大丈夫、大丈夫……本当は、これも夢で、あと数時間後したら朝になったらいつも通りに柑奈がおはようって起きてくると宥めるが、さすがにそれは無理があるらしい。  人間、想定外の事にはすぐに対応出来ない生き物なのだ。  天使でさえも、想定外の死はすぐに対応出来ないのと同じ。  この様子を見に来ていた天使は、切ない気持ちになる。 (タイミング見計らって魂回収して来いって言うけどさ……)  仕事なのだからと言い聞かせて天使は、死亡解剖が終わったタイミングで柑奈の身体から魂回収をした。  肉体だけが残った状態だが、人間には亡くなった事実さえあれば十分なのだ。  病気で亡くなった人とか、人生をまっとうして亡くなった人などの魂と違って、どこか雲っているように見えるのは、自分が亡くなった事実を知らないのか、まだ未練があるのかはわからない。  天使はそれでも心を鬼にして今すぐに神様の元へ戻っていく。  小さな瓶に詰められた新しい魂が、かばんの中に入れられて他の魂が入った小さな瓶とぶつかってコツとか音を立てている。  複数の小さな瓶が割れないよう注意しながら、天使はゆっくりと天に上がる。 (それにしても、毎日、何件かは自殺した人間の魂なんだよな。よく自ら命を断とうするよね。母になった女性が、お腹痛めて産み落とした生命を粗末にするなよな。私は生まれながら長く生きられない生命だったから、早々と天に召されたわけだけど、ちょっと嫌な事があっただけで……頼れる存在がいれば、君もまた救われたかもしれないのにね)  けして、天使は同情しているわけではないが、そういう事を考えずにはいられない性分なのだ。 「回収した魂は無事だよね?」  天界に着いた天使は、かばんの中の小さな瓶を確かめてみる。  壊れていなくて安堵するもつかの間、神様の元へ回収した魂を小さな瓶ごと手渡した。 「想定外の魂が一つだけあります。それ以外は、予定通り亡くなった方々の魂です」 「ご苦労様。もしかして、この雲っている小さな瓶が想定外の魂なのかな? まだ若い感じがするね。眷属たちの面倒でも見てくれる? 私はやらねばならない事があるから部屋に戻っているよ」 「若い女性の魂は、やはり神様でも違和感がありますよね。仕事は終わったので眷属たちの面倒を見てます」  天使は、神様のお子さん並に可愛がっている眷属がいて、もふもふして可愛い。  眷属たちの面倒を見ていたら、神様から先ほどの雲っている魂の原因が明らかになったと伝えられた。 「自殺したのにわかったのですか?」 「まあね。動物が大好きだったから、亡くなった動物園のライオンの赤ちゃんが気になっていたようだよ。だけど、自殺するほど切羽詰まっていたから、人生を終えてしまったという事かな」  ふむ、と顎に右手を添えて神様はそう話した。 「彼女には、異世界転生して楽しく過ごしてもらう事にしたよ。下界では、楽しく過ごせなかったなら、異世界で幸せになったっていいと思ってね」  神様は、自殺したら肉体は楽になるけど魂は苦しむ事もあるという説明をした上で、今度こそは笑顔溢れる人生を送って欲しいと、異世界へ送り込んだと言うのだ。  
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