ここで、一からスタート

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ここで、一からスタート

 魂を回収してきた天使から受けとった神様は、小さな瓶から魂を取り出して筒の中に入れてこのような事を話した。 「説明があります。回収してきた魂は、生前は坂口柑奈という女性でした。ですが、どうやら本当はまだ生きたかったようですね?」  筒をつつきながら神様は聞いてみた。  筒の中は、人間の赤ちゃんの形をしたモノがふわふわ浮いていて、まるでお母さんのお腹の中を再現しているかのようだ。  へその緒こそはないが、小さな小さな生命の塊は神様の声が聞こえるのか、こくんと小さく頷いた。  だが、人間界とは違って筒の中でどんどん成長していき、たったの数分で人間の形が出来上がった。  筒の中から出した神様は、白い服を着せてあげてこう言った。 「想定外の死を成し遂げた貴女には、してもらいたい事があります。名前は下界にいた頃と同じ柑奈。性別も女性です。異世界で皇帝の花嫁になってください」 「下界では、嫌な思いをしたの……だから生きつづけるのはちょっと……」 「異世界転生ですよ。かの有名なファンタジーを死っていますか? 指輪を巡って旅をするという……あのような世界で、貴女は幸せになれます。悩んだりする事も多少あるかも知れないが、下界ほどではありませんよ。だって、皇帝の妻になれるのだから……眷属も一匹つけてあげます。動物大好きだった記憶だけは残しておきました。では、行ってらっしゃい」  なんとも有無を言わせず、半ば強引に神様は、生まれ変わった少女を淡いピンク色の穴から送り出したのだ。  という経緯を天使にして聞かせた。 「異世界転生、ですか。生きたかったという魂にはよかったのかもしれないですね。しかも、眷属を一匹つけてあげたなんて、神様は寛大な心の持ち主です」 「天使にも出来ないけど、地獄へ送り出すよりずっとマシでしょう」 「確かに、自ら命を絶った場合、天界に置いておくのは厳しいですしね。だからといって、悪事を働いてきたわけではない人間を、地獄へ送り出すのは悪魔です。異世界で、何が起きているのです?」 「人に化けたある獰猛の生き物が、お嫁さん探しをしているという情報しかわかってません。でも、下界よりのんびりとした世界ならあの子は今度こそは大丈夫ですよ」  ふふふと神様は笑った。  天使は思った。  悪魔のような心を持っていても神様になれるんだなと。  異世界転生をした柑奈は、シンデレラとかそういう類の童話に出てくるような衣装を身につけている。  辺りを見渡すと見覚えのない草花などが、ところ狭しと咲いている庭がある事に気がついた。 (私、どこに来たんだろ?)  庭の中央には大きな建物が建ってある。  これも、何か童話に出てくるような造りをしている。  ポケーとしていたら、背後から声をかけられた。 「あの……、そこで何をしているのですか?」 「えーと……迷子になってしまったみたいで……お嫁さん候補を探している皇帝がいるお城に行きたいのですが……」 「目の前にありますよ。貴女も、ここへ迷い込んだ人の一人なのですね。おそらく探しているお城は、ここだと思います。とりあえず、ここから移動しましょう」  そう言って女性はすたすた歩き出したので、柑奈も慌てて後をついていく。
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