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「何でこれ、クリップしか付いちょらんのんじゃろ?」
車に乗り込んで、堀さんの車の後を付いて行きながら、実篤がそうつぶやいたら、くるみも同じことを思っていたようで、
「ホンマ、ホンマ。胸ポケットのある服ばかりじゃないのに、本気で付けさせる気、あるんですかねぇ」
と苦笑する。
ビジターパス、安全ピンでも付いていればどんな服であろうと学生時代の名札よろしく取り付けやすいのに、なぜか小さなクリップしか付いていないのだ。
服の布地をギュッとつまんで噛ませてぶら下げてはみたものの、非効率的だなと思ったふたりだ。
「変なの!」
ふたり声がそろってしまって、顔を見合わせてクスクス笑って。
実篤は、くるみと一緒にいると、こういう他愛もないことがとても幸せな時間に思えて楽しい。
ひとつのことに、くるみとふたり共感出来るのが凄く凄く嬉しかった。
「実篤さんとうち、結構価値観似ちょるけん、ホンマ一緒におって心地ええです」
くるみもそう思ってくれていると知ることが出来た実篤は、「俺も……」と照れ隠しにごくごく短く答えながら、その実、ひとり胸の中で「よっしゃー!」とガッツポーズをした。
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