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そもそもアットホームを売りに経営しているつもりの小さな不動産屋のこと。
雇っている従業員には幸せになってもらいたいし、それと同じくらい長く勤めてくれたらええなぁとか期待していたりもする実篤だった。
***
先に田岡が言ったように、実篤は地元商工会の青年部――若い世代を育成するためのグループであって、決して若人の集いではない――に所属している手前、毎年商工会主催の岩国祭には主催者側のメンバーとして参加している。
入会当初から会場の巡回や駐車場の整備などを司どる警備班の方に配属されて移動がないのは、表向きは「栗野さん、慣れちょってじゃけぇ」と言うことになっていた。
だが真相は――。
「社長、見た目怖いけぇ、ちょっと睨みきかせたらみんなよぉ言うこと聞いてくれますけぇね〜」
田岡から揶揄うようにニヤリとされて、実篤は「はぁ〜っ」と盛大な溜め息を落とす。
実篤、身長は176cmしかないし、男としてはそう大きい方ではない。
けれど、何故か「栗野さんは身に纏う雰囲気が迫力満点じゃけぇね。何か睨まれたら思わず『ひっ!』て悲鳴が出るんよ」と言われてしまうのだ。
実際に話してみればそうではないと分かってもらえるのだけれど、低めで腹の底に響くように聞こえるらしい声と、鋭く見える目つきが堅気じゃないかも、と錯覚させるらしい。
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