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「いっそのことスーツ着るのをやめちゃったら違うんじゃないですか? ほら。社長が着ると何でか分からんですけど堅気っぽくなくなるじゃないですか」
田岡の横から、経理の野田千春がクスクス笑いながらそう付け加えてきて。
スタッフの中で唯一自分より年上の46歳の彼女は、他のスタッフたちに対しても、雇い主の実篤に対しても分け隔てなく辛辣で容赦がない。
実篤がそれを許す人間だから、というのもあるけれど、とにかくそう、ここ――クリノ不動産――はこんな雰囲気で和気藹々とした社風なのだ。
今はたまたま席空きでいない営業男性2名にしても、結構伸び伸びと仕事をしていると思う。
「いや、みんな勘違いしちょらんですか? 当日の俺、Tシャツに法被羽織っちょるんですけど」
祭りの時はスーツじゃないですけぇね?と付け加えたら、女性陣ふたりから「あぁ〜」と溜め息とも納得とも区別のつかない声が一斉に上がった。
「……まぁ、何にしても頑張ってきてくださいね。事務所の方は私らがしっかり守っちょきますけぇ」
しばし間を置いて、まるで今の「あぁ〜」を誤魔化すみたいに野田が言った。
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