5-2. 桃色狼とほろ酔い兎*

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*** 「(のじょ)いたりしたら絶交(じぇっこう)れしゅけぇね?」  そんなことを言いながらフラフラとトイレの個室に消えたくるみを見送って、廊下で一人「さて」とつぶやいた実篤(さねあつ)だ。  このまま扉の前に張り付いているのは余りにもデリカシーがない。 (じゃけぇって(あんま)し離れちょったら何かあっても分からんし)  結果、三歩ほど後ずさるようにして扉から離れてみた。 (これ、意味あろぉ〜か?)  疑問に感じつつも、くるみが心配でそれ以上はどうしても距離をあけられなくて。  そうこうしている内に息子さんも平常心を取り戻してきたらしく、痛いほどに張り詰めていたそこが落ち着いてくれてホッと胸を撫で下ろす。  いわゆる〝テントを張る〟という状態だったわけだけれど、さすがにそれは結構窮屈でしんどかったのだ。 (ここから寝室までは、手ぇ二本で行けそうじゃわ)  そんなくだらないことを思っていたら、流水音が聞こえてきて、ゆらゆらしながらくるみが個室から出て来た。 「実篤(しゃねあちゅ)しゃんはマメ()くんれしゅね〜」  扉を開けて実篤の姿を認めるなり、くるみがそんなことを言ってきたから、実篤は思わずキョトンとしてしまった。
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