5-2. 桃色狼とほろ酔い兎*

39/46
前へ
/470ページ
次へ
***  ゴムの入った封を切ったと同時。  実篤(さねあつ)に内壁を擦られて変な声が出てしまったくるみだ。  未知の感覚に驚いたのと同じくらい、いま忙しいのに!と言う思いが込み上げてきて、思わず実篤を叱ってしまった。 (何で男の人って時々空気の読めんことをするん?)  思い返してみれば亡き父もよく要らないことをしては亡母に叱られていた。  ふとそれを思い出して懐かしくて切ない気持ちになったくるみだ。  瞬きを数回して気持ちを切り替えると、手の中の避妊具に意識を集中する。  中にはピンク色の平べったくて丸いものが入っていて。  恐る恐る手に取ってみると、何となくヌルッとした。 「ひゃっ」  手を見ても濡れてはいないので、気のせいかも知れない。 「初めれ(しゃわ)りました」  話には聞いたことがあるし、中一の時、保健体育で遠目に見たこともある。  先生から回されてきたサンプル品を、パッケージ越しにサワサワと触れてみたこともあった。  だけどこんな風に中身をしげしげと見るのは初めてで。  おっかなびっくり指でつまんで取り出してみた薄ピンクの薄い皮膜は、とってもゴム臭くて。  真ん中のところに乳首みたいな突起がついていた。 「ヌメヌメした風船みたいれしゅね」  それが、初めてコンドームを手にしたくるみが抱いた率直な感想だった。
/470ページ

最初のコメントを投稿しよう!

899人が本棚に入れています
本棚に追加