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「毎週木曜にさ、移動パン屋がうちに配達に来てくれることになったけぇ」
岩国祭の一件がきっかけで、移動パン屋『くるみの木』の木下くるみと知り合った実篤だったが――。
あの日、まだ二十代そこそこと思しき歳の離れたその女の子に一目惚れしてしまっただなんて。
ましてやその子との接点をなくしたくなくて、『クリノ不動産』への定期的な配達を打診しただなんて。
強面で結構図太い神経をしていると自認しているつもりの実篤でも、さすがに恥ずかしくて口が裂けても言えそうになかった。
代わりに、何でもないことのように「祭りン時にさ、縁があってそこのチョココロネ食ってみたら旨かったんっちゃ。じゃけぇ……」と、もっともらしい理由をつけて定期配達を頼んだ旨を社員らに暴露した。
くるみの顔をまじまじと見つめたとき、どこかで会ったことがあるような気がしたのは未だ心の片隅に引っかかってはいる実篤だったけれど、「あんな可愛い子、見知っちょったら今更〝一目惚れ〟なんてせんよなぁ」とも思うのだ。
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