2.本音がスルリ

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良い(ええ)名前じゃと思ったのにのぉ〜。なぁー、大豆(ダイズ)?』  その父が、目を糸のように細めて猫を撫でる姿はなかなかに不気味(見もの)だった。  もしかすると、くるみを前にした自分も、あんな顔になっているんだろうか、とちょっとだけ不安になった実篤(さねあつ)だ。 (今度からと会う時は気を付けんにゃあいけんな。も言ってしもぉーたし)  画面越し、猫に頬を擦り寄せる父を見て真剣にそう思って。 「そう言えば(やぁ)、なんで文豪(ぶんごう)の名前にせんかったん?」  両親は、大学の文芸サークルで知り合ったのがキッカケで結婚した同級生同士だ。  現に実篤(さねあつ)を筆頭に、我が子らの名は三人とも名だたる作家たちの名前から取られている。  そんな両親なら、猫にだって夏目漱石の『吾輩(わがはい)は猫である』なんかに(かこつ)けて、そう言う系の名前を付けたって何ら不思議じゃなかったはずだ。  実篤(さねあつ)からの至極もっともな質問に、母親があっけらかんと答えた。 『動物はねぇー、食べ物の名前三文字で名付けると長生き出来るんと〜』  どこから聞き(かじ)ってきた情報かは知らないが、一部の飼い主たちの間でまことしやかにそんなジンクスが流れているらしい。 『嘘かホンマかは知らんけどね、あやかるぐらいはえかろぉ?』  両親が声をそろえてそう言うので、実篤(さねあつ)は「そうじゃね」と答えておいた。
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