6-4.焼けぼっくいに火はつくか?

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***  『1301』と書かれた透明な細長い四角柱のアクリルキーホールダーにくっついたルームキーを片手に、実篤(さねあつ)はエレベーターを目指した。 (うわ、俺バカなん? 何かつい勢いで部屋とか取ってしもぉーたんじゃけどっ)  顔には努めて出さないようにしているつもりだけど、内心心臓バクバクだった。  さっき、雰囲気に飲まれてついフロントマンに声をかけてしまった実篤だったけれど。  『ここのバーでは〝モクテル〟とか飲めますか?』と覚えたての単語を織り交ぜて聞くつもりが、寸前で妙に恥ずかしくなって。つい『部屋とか空いてたりしますか』とか予定外のことを口走ってしまった。  いくら田舎のホテルとはいえ、市内で一番高級感あふれる新しいホテルだ。  しかも年末のこの時期。  さすがに素泊まりなんて断られるじゃろ、と思っていたのに。 (まさか『はい、ございますよ。どのようなお部屋のタイプが宜しいですか?』と聞かれるとは誰も思わんじゃろ⁉︎)  動揺のせいで操作盤の「十三」の行先ボタンを押す手が、思わずフルフルと震えてしまった実篤だ。
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