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鏡花に自分から電話をかけて呼び出すことも可能なのに、わざわざ鬼塚にそう頼んだのは、彼を牽制する意味もあった。
「ええ……分かりました。ただ、会場も広いですし何しろ参加人数も多い。すぐには見つけられんかも知れんのんですけど……」
ここへきてわざとらしく渋る鬼塚に、実篤はチラリと冷たい視線を向けると、「先程も申し上げた通り至急の用件なんですよ、鬼塚さん。失礼ですが、幹事さんならその辺何とでもなりますいね?」と穏やかな――でも聞く者が皆ゾクリと背中を震わせるような低音で畳み掛ける。
わざと〝名前も覚えたぞ〟という意思表示を込めて、「鬼塚さん」を織り交ぜたのもあるだろう。
「ああ、それもそうですね。緊急事態っちゅうことで鋭意努力します」
すぐに鬼塚がそう答えて。
だがこの鬼塚という男もなかなか肝が据わっているらしい。
実篤のその声音に、笑顔の仮面を崩さないままにそう返せたのだから。
(こいつ、相当腹黒いな)
実篤は今までの経験から、そう判断した。
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