6-4.焼けぼっくいに火はつくか?

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*** 「実篤(さねあつ)さん……ここは」 「あー、ちょっと成り行きで取ってしもうた部屋なんじゃけど……あんまり(ふこ)ぉ考えんで?」  ――恥ずかしいけん。  ゴニョリと小声で続けたら、くるみがギュッと抱きついてきた。 「あのっ、せっかく助けてもろうたんに……ごめんなさい……。うち……鬼塚くんと……ちゃんと話をせんと……いけんのん」  さっきだってあんなに怖がっていたくせに、気丈にもそんなことを言ってくるくるみに、実篤は瞳を見開いた。  今も、言いながら明らかに分かるくらい震えているのだ。  どうにも堪らなくなって、実篤はその震えごと包み込むみたいにくるみの小さな身体を抱き締めた。 「さっき、鬼塚(あいつ)とのやり取り、聞いちょったじゃろ?」  恐らくくるみがこんなことを言ってくるのは、鏡花(きょうか)がネックになっている。  そう思った実篤は、くるみの頭にチュッと口付けた。  こんなにか細い身体で、またあの男にいいように言いくるめられて力づく、何処かに連れ込まれそうになったらどうするんよ?と言う恨み節を懸命に押さえながら。  実篤は言葉を選んでくるみに声を掛ける。
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