6-4.焼けぼっくいに火はつくか?

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「ごめんね。ちょい待ってね」  実篤(さねあつ)はくるみを抱き締める腕を緩めると、携帯を手に取って画面を見た。 「鏡花(きょうか)じゃ」  くるみにも分かるようにつぶやくと、唇に人差し指を当てる仕草で「しーっ」と声を出さないよう伝えて、スピーカー通話にする。 「もしもし?」 『あー、もう、お兄ちゃん! 至急で用とか何なん⁉︎ (ろく)でもない用事じゃったら私、怒るよ? 何かモテ期が到来したかも知れんけん、忙しいんじゃけ! これからくるみちゃんと合流して作戦も練らんといけんし。悪いんじゃけど手短に話して?』  開口一番場違いなことを言って、声に棘を滲ませる鏡花に、実篤は小さく吐息を落とした。  これには腕の中のくるみも、驚いた顔をして実篤を見上げてくる。 「あんなぁ、鏡花……」  ――それ、きっと仕組まれた罠じゃけ、一旦落ち着き?  そう続けようとして、実篤は慌てて口をつぐんだ。  電話だと、周りに誰がいてどう言う状況でこの電話を掛けてきているのか分からないではないか、と気が付いたからだ。  もしかしたら、今実篤がくるみにも聞こえるように、とスピーカー通話にしているように、鏡花の方も鬼塚側の指示でそうしていないとは限らないと思って。
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