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そんなことを懸念しながらそこまで話して、通話口を押さえながらくるみの耳元。「俺、鏡花を捕まえて家に帰して来るけん、くるみちゃんはここで良い子して待っちょってくれる?」と囁いた。
今鏡花に話した言葉で、てっきり一緒に行けると思っていたんだろう。
くるみは一人にされると知って、一瞬だけ不安そうにギュッと実篤の服を握って。
それでもすぐに気持ちを切り替えたみたいに気丈にもコクンと頷いた。
それを見た実篤は、胸がギュッと締め付けられて、急きょ路線変更を余儀なくされる。
「やっぱり一人にしちょくんは俺が不安じゃわ。外に出るん、今は怖いかも知れんけど俺が守るって誓うけん。ごめんけど一緒に来てくれる?」
小声で落とされた実篤の言葉に、くるみがパッと瞳を輝かせた。
(俺が一緒に居りゃあ、もし途中で鬼塚に出会ーても何とかなるじゃろ)
とりあえず、今は一刻も早く鏡花を捕まえることを優先しよう。
鏡花さえ無事だと分かれば、きっとくるみも心から安心出来るはずだから。
くるみと手を繋いで、たったいま入室したばかりの一三〇一号室を後にしながら、実篤はそう思った。
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