6-4.焼けぼっくいに火はつくか?

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*** 「ごめんなさい。お兄ちゃんから呼び出しがあったの……。お話はまた次の機会に」  実篤(さねあつ)の指示通り、電話を繋げたまま。  保留にすることも出来たのに敢えて通話口を軽く抑えるだけして、鏡花(きょうか)はすぐそばの鬼塚を見詰めた。  もちろん、心の中では(次なんてないけどね)と毒づいている。  さっさと帰りたい一心でペコッと丁寧に頭を下げると、鬼塚が何か言いたげに口を開いたのをを決め込んで実篤に話しかける。 「それで(ほいで)お兄ちゃん。くるみちゃんの様子はどうなん?」  くるみの名前をわざと出して、彼女も兄とともにいることを匂わせつつちょっぴり大股で足早に歩き出した。  会場入り口付近に、屈強なラガーマン三人衆――今井・中野・田村がまだたむろしていたのでまた捕まったら面倒だとちょっぴり緊張したのだけれど。  こちらは鏡花が電話中なのをチラリと見ると、近寄ってこようとしなかったので(鬼塚より常識あるじゃん)と思った鏡花だ。  エレベーターに乗り込むまで突き刺すような視線――多分鬼塚の!――を背中に感じていた鏡花は、箱待ちの間本当に不快で。  おまけに耳に当てたスマートフォンから聞こえてくる実篤の声が、『鏡……っ、大……夫な……か?』とやけに途切れ途切れなのが、気持ち悪さに拍車をかけるみたいに不安な気持ちを煽ってくる。
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