6-4.焼けぼっくいに火はつくか?

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 本音を言うと、すぐさま携帯画面を見て、電波状況を確認してしまいたい。  でも、今ここでそれをして通信が不安定だという雰囲気を醸し出したりしたら、鬼塚に隙を与えてしまうかも知れないと思って。  鏡花(きょうか)は、その衝動をグッと我慢した。  恐らくは「鏡花、大丈夫なんか?」と問いかけているであろう兄に「問題ないけん、ちょっと(ちぃーと)落ち着きんちゃい」とハキハキ応えながら、やっと口を開いたエレベーターに乗り込んだ。  箱に入って扉を閉ざすなり、兄との通話が切れてしまい。  「閉」ボタンと階数表示の「1」を流れるように押しながら、小さく「あ」とつぶやいた鏡花だ。  扉が閉まり切って、身体を預けたエレベーターが下降を始めたのを体感するなり、鏡花は緊張の糸がプツッと切れて個室内の壁に半ば倒れるみたいにもたれ掛かる。 (あ〜。実家に帰ってきて美味しいもんいっぱい食べて養った英気、今ので使い果たした気分じゃわぁ〜)  などと思いつつ、小さく吐息を落としながらスマートフォンの画面を見たら、圏外と微弱電波の間を行ったり来たり。 (エレベーターん中って電波悪いんじゃー)
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