6-4.焼けぼっくいに火はつくか?

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 通話しながらエレベーターに乗ったこと自体なかったので知らなかったが、心配性の兄のことだからきっと携帯を片手にソワソワしているに違いない。  その様子が手に取るように目に浮かんで、鏡花(きょうか)は一人クスッと笑ってしまった。  一階についてエレベーターを降りるなり、「鏡花!」と兄の声が聞こえてきて。  くるみと手を繋いでこちらに向かってくる実篤(さねあつ)の姿が目に入った。 「すまんっ、鏡花! エレベーターに乗った途端電波が(わる)ぅなって切れてしまった(しもぉーた)」  眉根を寄せて申し訳なさそうに頭を下げる兄を無視(スルー)して、心の中で『いや、私もエレベーター乗ったしお互い様よ』と返しながら、実際には兄を通り越して彼の背後のくるみに話し掛けた鏡花だ。  背後で兄が「あ、おい!」とか言っているけれどいつものこと。まぁ、すぐに静かになるだろう。 「くるみちゃぁ〜ん、大丈夫じゃった? 何もされちょらん? こんなんじゃったら取ったモンなんか放置して(ほっぽって)一緒にトイレ行けば()かったね」  実際、人の取り皿なんて誰も興味なんて持たなかっただろうし、置いて行ったからと言って、どうこうはなかったはずだ。 「うちはたまたま通りかかった実篤さんが助けてくれたけん大丈夫。鏡花ちゃんこそ平気(へーき)? 怖い目に()うたりせんかった?」
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