6-4.焼けぼっくいに火はつくか?

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 もちろん、下心がないと言えば嘘になる。けれど、そこはスルーしてくれぇーと思った実篤(さねあつ)だ。 「うっせぇーわ」  吐息混じりに鏡花(きょうか)を睨んだら、いきなり胸ぐらを掴まれ、グイッと顔を引き寄せられて、すぐ耳元。 「くるみちゃんの事、しっかりケアしてあげんさいよ⁉︎」  と耳打ちされた。  鬼塚のことを話した時のくるみの様子がおかしかったから、鏡花も思うところがあったんだろう。  思いのほか自分のことを信頼してくれているような口ぶりに、実篤はジーンときて。 「鏡花っ」  思わず可愛い妹をギュッと抱きしめようとしたら、サッとかわされてしまった。 「気持ち悪いことせんで!」  鏡花はそのまま、実篤が手にしていた万札をスッと奪うと「お釣りはお小遣いでええんよね?」と言ってくる。  元よりそのつもりだった実篤は、だけど悔しさから吐息まじり。 「いけんっちゅうても返す気なかろうが」  と呆れた素振りをして見せる。 「よぉ分かっちょるじゃん」  クスクス笑う鏡花が、くるみとは違う意味で小悪魔に見えた実篤だ。  ホテルの外には、わざわざ呼びつけなくてもタクシーが常時数台待機していて。  実篤はくるみと二人、鏡花がタクシーに乗り込んで、無事走り去って行くのを見えなくなるまで見送った。
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