6-5.小悪魔の不安と、ワンコ狼の本音*

6/21
前へ
/470ページ
次へ
「くるみちゃん?」  実篤(さねあつ)に恐る恐る呼びかけられて、慌てて顔を上げたらポロリと涙がこぼれ落ちた。 「あ、あのっ、これは……」  恋人になれてたかだか数ヶ月。  それで結婚を意識して欲しいと思う方が烏滸(おこ)がましい話ではないか。  ましてや自分は実篤より七つも年下の二十四歳。  もしかしたら実篤にとって、くるみは結婚対象としては幼く見えているのかも知れない。  だけど――。  両親を失って、天涯孤独な身となってしまったくるみにとって、実篤が告げた「婚約者」の言葉はとても大きな意味を持っていたのだ。 (実篤さんと結婚出来たら、うちにもまた家族が出来る?)  そう思ってしまったから。  ちょっと前にお食事にお呼ばれした時、栗野家(くりのけ)はとても賑やかで楽しかった。  自分もその中の一員になれたらどんなにか幸せだろう。  そんなことを考えてしまった矢先だったから。 「目に、ゴミが入ってしもうただけ……じゃけぇ」  言ったら実篤にギュッと抱き締められた。 「ねぇ。お願いじゃけ俺の話、最後まで聞いて? 俺、今はまだくるみちゃんにプロポーズとか全然(よぉ)出来んけど……それにはちゃんと理由があってね……」
/470ページ

最初のコメントを投稿しよう!

897人が本棚に入れています
本棚に追加