6-5.小悪魔の不安と、ワンコ狼の本音*

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***  くるみの告白に実篤(さねあつ)は苦しくなるぐらい胸をぎゅっと締め付けられた。  無論、いくら実篤だって、いま彼女が告げたことに気付いていなかったわけじゃない。  だからこそ、鬼塚に抱き寄せられるような格好でくるみがエレベーターに乗り込んできたとき、思わず「婚約者」だと名乗ってあの男を牽制(けんせい)したのだ。  くるみは小悪魔だけど、身持ちの緩い女の子ではない。  そもそもあの男がいるからと、同窓会に行くのを渋っていたのを実篤は知っている。  その鬼塚と再会したからと言って、焼けぼっくいに火が付くはずなんてないのだ。  今こうして実篤のことを引き寄せて慣れない所作で口付けをくれたくるみを見ても、彼女がそういうことに不慣れなことは一目瞭然で。  そんなくるみが、現状実篤(じぶん)という彼氏がいる身の上で、自らの意思、一度は拒否したという元カレとどうこうなりたいと望むはずがない。 「そんなん、言われんでも分かっちょる」  震えながら自分にしがみついてくるくるみをじっと見つめ返すと、実篤は腕の中の小さな身体をギュッと抱き返した。 「俺がそうしたいって思うんも、くるみちゃんだけじゃけ。さっきの言葉の後で信じてっちゅうても難しいかも知れんけど……ホンマのことじゃけぇ、俺のこと信用して欲しい」
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