6-5.小悪魔の不安と、ワンコ狼の本音*

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 言いながら、矢張りどうしても先程の言葉の続きをくるみに言わねばと覚悟した実篤(さねあつ)だ。 「それでね(ほいでね)、さっきの話の続きじゃけど――」  実篤の言葉に、くるみがビクッと身体を震わせて、「今すぐ聞かんといけん? 後じゃダメ?」と問い掛けてくる。 (この()に及んでくるみちゃん、何をそんなに不安がっちょるんじゃろ?)  さっき自分の言った不用意な発言が、まさかくるみをここまで追いつめてしまっているだなんて思いもしない実篤は、そんなことを思ってしまう。  うるうると濡れた瞳で見上げられて、実篤は思わず流されそうになって。だけどこの愁いを含んだ眼差しはどうしても看過出来ないと思い直した。  手の内をみすみす明かすみたいでかなり格好悪いけれど。  結局それを打ち明けるぐらいなら「あれは本心からの言葉じゃったよ」と最初から認めたほうがよっぽどマシだった気さえするけれど。  実篤はこの際自分が恥ずかしいのはどうでもいいと思うことにした。  そもそも妹の鏡花(きょうか)に言わせれば、自分は常にカッコ悪いらしいし、今更ではないか。 「今聞いてもらわんと意味がない話じゃけん。ねぇそんな風に(そんとに)不安そうな顔をしちょるキミを(なぐさ)めんままに抱くほど、俺は悪趣味な男じゃないつもりなんじゃけど?」
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