6-5.小悪魔の不安と、ワンコ狼の本音*

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 実篤(さねあつ)が、懇願(こんがん)するみたいにくるみをじっと見つめたら、くるみがクスッと笑って小さく吐息を落とした。 「うちも実篤さんが大好きじゃけ、特別に許してあげ(ちゃげ)ます」  そのままくるみが実篤の首に腕を回して抱きついてくるから、実篤は彼女の身体を抱き起こして腕の中に収めた。  くるみが起き上がってくれたことでファスナーがスムーズに下ろせたことは言うまでもないだろう。 「ご協力、感謝いたします」  実篤がくるみを抱きしめたまま、彼女の耳元でわざと仰々(ぎょうぎょう)しく礼の言葉を述べたら、くるみが「どういたしまして」とクスクス笑う。 「実篤さん、うちのこと好きなん、嫌って言うほど分からしてくれるんでしょう? ――うち、恥ずかしいけど同じくらい期待もしちょりますけぇ」  その上、そんなことを言って実篤を煽りまくってくるのだ。 (この子は本当(ほん)に手に負えん小悪魔だわ(じゃて)。俺みたいなヘタレで太刀打ち出来るんじゃろーか)  さっきはその場の雰囲気に飲まれて考えなし。目一杯男らしい虚勢を張ってしまった実篤だったけれど。  実は早くもヘタレわんこがニョキニョキと頭角を現し始めていたり。 「ぜ、善処させて頂きます」  くるみのブラのホックを外す手をプルプルと震わせながら、実篤は(しっかりしろ、俺!)と、尻尾を巻いて隠れてしまった己の中の狼を必死に探した。
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