6-5.小悪魔の不安と、ワンコ狼の本音*

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 いつも鬼塚から差し伸べられる手や、投げ掛けられる言葉、見つめられる視線にくるみは心の片隅、言いようのない違和感を覚えていた。  男性から告白されたことはそれまでにだって何度もあったくるみだったけれど、ではどうしたいのか、まで伝えられたことはなくて。  くるみ自身は余り自覚していなかったけれど、幼い頃からかなりモテモテだったくるみは、想いを伝えられたらそれだけで満足という〝玉砕覚悟〟の告白ばかりを受けてきた高嶺(たかね)の花子ちゃんだ。  自己完結のためか、で、それ以上は考えること自体恐れ多くて踏み込めなかった男たちばかりに想いを伝えられてきた経歴の持ち主。  そんな中、鬼塚は「好きだ」の後に、だから「彼女になって欲しい」まで告げてきた初めての異性だった。  それは自分のことが大好きな鬼塚が、くるみのことを本当は好きじゃないくせに〝モテる女を落とした〟と言う優越感を得るためだけに告白してきたから出来たことだったのだけれど。  経験値の浅いくるみは、そのことを見抜けないままに彼の申し出を受け入れてしまった。  鬼塚にとってくるみは自分を飾り立てるための存在に過ぎなくて、周囲に一目置かせるためのステータスの一部だったんだと、今なら分かる。  あの当時、そういうのには気付けなかったくるみだけれど、本能的な部分で〝何かが違う〟というのは常に感じていた。
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