6-5.小悪魔の不安と、ワンコ狼の本音*

21/21

897人が本棚に入れています
本棚に追加
/470ページ
 だからキスだってされるのが何となく嫌だったし、その先を求められたときにはとうとう我慢出来なくなって逃げ出してしまったのだ。  鬼塚にとって、それは相当に屈辱的な事で、何としてもリベンジして……皆の前で「くるみ(あの女)も結局は俺のモンにしてやった」と宣言せねばならないと執着してしまうほどの出来事だったらしい。  けれど、くるみにしてみれば迷惑極まりない話だ。 (実篤(さねあつ)さんはうちのこと好いてくれちょるんも、大事にしてくれちょるんも全部全部駄々洩れじゃけぇ)  ヘタレワンコのくせにそこは持ち前の誠実さゆえだろうか。  でくるみに告白してくれた実篤は、他の男性たちと違って〝好きだから付き合いたい〟まで伝えてくれた唯一の男だ。  そんな実篤相手だったから、自分も心の底から彼のことを好きになれたし、実篤にはキスだけじゃなく……その先だってして欲しいと自然に思えて。  実篤はくるみにとって生まれて初めての彼氏ではなかったけれど、愛し愛されることの喜びを家族以外でくるみに教えてくれた初めての男性(ひと)だった。 (ねぇ実篤さん。うちが実篤さんのことを好きな気持ちも、たくさんたくさん溢れて……ちゃんと貴方に伝わっちょりますか?)  一緒にいるだけで胸がキューッと苦しくて切なくなるこのどうしようもない感情は、実篤がギュッと抱きしめてくれた時にだけ、ふんわりと温かくて幸せな気持ちに変換される。 (実篤さんもうちと同じなら良い(ええ)な)  そう思ったら無意識。  くるみはスリスリと実篤のむき出しの胸元に頬を摺り寄せてしまっていた。
/470ページ

最初のコメントを投稿しよう!

897人が本棚に入れています
本棚に追加