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「あー、えっと……それじゃあピアスは除外してイヤリングやらネックレスやら……そういうのを見してもろぉてもええですか?」
本当は指輪こそが大本命だったのに。
思わず一番肝心なそれを言い忘れてしまって、(しっかりしろ、俺!)と思った実篤だ。
(これ、どこかのタイミングで指輪に誘導できるんじゃろうか)
買う買わないは別にしても、何とかそれにかこつけてくるみの左手薬指のサイズを知りたい。
今日ジュエリーショップにくるみを引っ張ってきたのはそのためだ。
くるみの同窓会があった日の夜、実篤はホテルの一室で彼女に打ち明けたのだ。
――『俺ね、くるみちゃんにはちゃんと指輪を準備してからセオリー通りのプロポーズがしたいんよ。――じゃけ、さっきの婚約者云々の発言は、一旦聞かんかったことにして欲しいです』と。
もうそう言ってしまった時点でプロポーズしたも同然だったのだけれど。
それでも――。
年上の男として、その辺はちゃんとけじめをつけたかったのだ。
あそこまで手の内を明かしておいて「だからくるみちゃん、左手の薬指のサイズ教えて?」とさらりと聞けないところも含めて。
実篤は嫌になるくらい実篤らしくヘタレわんこのままだったし。
くるみにしても実はここへ連れてこられて心の片隅。
実篤がそんな事を目論んでいるんじゃないかと思いつつも敢えて助け舟を出さない程度には小悪魔だった。
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