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「イヤリングはこの辺りです」
店員が壁のショーケースにズラリと並んだイヤリングを紹介してくれて。
それを実篤と一緒に眺めながら、
「うち、普段あんまりアクセサリーとかせんけんよく分からんのんですけど――」
言って、くるみがソワソワと店員を気にしながら実篤を見上げてくる。
くるみの視線に気付いた実篤は、内緒話がしやすいよう彼女の傍に身を屈めると、くるみの唇に耳を寄せて「ん?」と問いかけて。
くるみは実篤の耳元、小声で「うち、ほぼ毎日パンこねたりしよるけん、イヤリングじゃと落としたりしそうで怖いなぁって思うて」と耳打ちしてくる。
実際にくるみが生地をこねたりするところを見たことがあるわけではない実篤だったけれど、確かに何となく動きが激しそうなイメージだ。
こねている内にイヤリングが外れて生地の中に練り込まれてしまったら異物混入騒ぎ必至。
大事ではないか。
それに――。
(落ちたんに気付かんまま生地を踏んだりしたら、くるみちゃんの可愛い足、傷つけるかも知れん!)
くるみに耳打ちされてふと実篤が思い浮かべてしまったのは、生地を厚手の袋に入れて小さな足で懸命に踏み踏みしているくるみの姿で。
きっとくるみが実篤の頭の中を覗けていたら『それはうどん打ちですけぇ! うちはパン生地、踏んでこねたりはしちょりませんよ⁉︎』と突っ込まれていた事だろう。
(っちゅーことはイヤリングは却下か……)
そこでハッと気が付いた様にくるみを見詰めた実篤は、名案を思い付いた。
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