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元々実篤は金遣いだってそんなに荒い方ではなかったので、現金一括で市内の中心部に広い土地と家を買ったところで全然問題ないし、それを何度か繰り返せる程度には蓄えている。
(好きな女の子にそこそこの贅沢をさせてあげることぐらい余裕で出来るんじゃけどな?)
そんな思いを込めてニヤリと笑って見せたら、「それを言うならうちだって『くるみの木』の店主です」と胸を張られてしまった。
確かにそうだった。
従業員を抱えているかいないかの差こそあれ、くるみだって一国一城の主だったではないか。
「そうじゃったね」
言って、二人で何を見栄を張り合っているんだろう?とおかしくなって、顔を見合わせてクスクス笑った。
***
「何ですぐに付けてくれんかったん?」
本当はお店から出る時には自分が見立てたイヤリングとチョーカーを身に着けもらいたかった実篤だ。
ひとしきり笑い合った後、ふと真顔になってくるみの手元の袋をちらりと見つめたら、くるみが「じゃって、うち……」と不自然に口ごもる。
「――?」
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