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毎週木曜日になると、くるみが移動販売車『くるみの木号』で『クリノ不動産』を巡回訪問する。
そんなことが去年の岩国まつり以降(十月末)からだから、およそ一年近く続いている。
滞在時間的には10分足らずだが、クリノ不動産所有の駐車場にくるみの木号が入庫すると、近隣の店の勤め人や、たまたま商店街に買い物に来ていた人たちも立ち止まって、くるみが丹精込めてひとつひとつ成形した手こねパンを買っていく。
商店街のアーケード下にある立地も手伝って、実篤の目論見以上に予定外の人だかりが出来てしまう。
結果、『くるみの木』を呼んだのは自分なのに、ちっともくるみと会話らしい会話が出来ないことが、目下の所の実篤の不満事項だったりする。
***
「実篤さん、ごめんなさい」
それでもある程度客足が引いてくると、くるみは必ず車のそばで所在なく立ちん坊を決め込んでいる実篤に声を掛けてくれる。
くるみを待ちわびている強面な闘犬のようにしか見えない実篤だが、彼自身の言によれば、くるみが揉め事に巻き込まれないよう〝この駐車場の管理者として〟ガードをしているだけらしい。
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