8.バレンタインデー

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 あの頃は付き合い始めたばかりで、お互いの仕事のペースも掴めなくて……。  結構無理をしてでもくるみに会う時間を作っていた実篤(さねあつ)だ。  だがあの時はやたら気分がハイになっていたからか、無理を無理とも感じずに突っ走ることが出来ていた気がする。  そこから十一月、十二月と仕事自体は落ち着く時期にさしかかったものの、年末年始は家のことに手を取られて思ったほどくるみと会う時間が取れなかった。  おまけに諸々(もろもろ)緩慢になって気が抜けたからか、二人にとって重要な初めてのクリスマス時期にインフルエンザに見舞われると言う(てい)たらく。  実篤は、くるみに会えたら際限なく求めたくなってしまうのは、次にゆっくり出来るのがいつになるか分からないと言う不安からな部分が大きいのではないかと思い到った。 (一緒に住めたらええんじゃけど)  なんてホテルで真逆のことを心配した頭で、実篤はついついそんなことを夢想してしまう。 「社長、まぁーた良からんことを考えちょってでしょう? お顔が気持ち悪いことになっちょりますよ?」  経理事務の野田(のだ)千春(ちはる)にグサリと刺されて、実篤は無意識に緩んでしまっていた口元を慌てて引き結んだ。
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