8.バレンタインデー

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***  くるみはクリノ不動産から少し行った先、二号線沿いにあるファミリーレストラン『ガストン』でドリンクバーでお茶をにごしながらそんな実篤(さねあつ)のことを待ってくれていた。 「お忙しい時期なのに(なんに)すみません」  くるみにとってこの時間は、いつもならもう家に帰っていて、明朝の早起き――パンの仕込み――に(そな)えて就寝する頃だ。  ましてや今いる立石町(たていしまち)からくるみが住む御庄(みしょう)までは車で片道二十分は掛かる。  実篤の方こそくるみの睡眠時間を削ってしまって申し訳ないと思っているのに、くるみはどこまでも謙虚で優しかった。 「俺の方こそごめんね。くるみちゃんと約束しちょったのに(おそ)ぉなってしもーて」  実篤はガストンに入るなり「こっちです」と手を振ってくれたくるみへ駆け寄ると、二人してペコペコと頭を下げ合って。  何だかその様がおかしくなって、顔を見合わせて笑ってしまう。 「くるみちゃん、もう(はぁ)夕飯とか食べた?」  とりあえず何か注文しようとメニューを広げながら実篤が聞いたら、くるみがフルフルと首を振って、ドリンクバーだけで粘っていたと答えた。 「それなら(ほいじゃあ)さ、もし食べる時間ありそうなら折角じゃし一緒に食べん?」  くるみが、そんな実篤の提案に嬉しそうににっこり微笑んで(うなず)いてくれるから。  実篤はもう一揃えあったメニュー表をくるみに手渡した。 「俺はこれにする」 「うちはこれ」  二人で、銘々(めいめい)が見ていたメニューをパタリと机に広げて「これ」と指差したら同じもの――香るキノコトッピングのチーズインハンバーグセット――で。  そんな些細(ささい)なことですら何だか嬉しくなってしまった。
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