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「うち、一回でええけぇここ、来てみたかったんです」
一見普通の家に見えるそのフレンチレストランは、黒板にチョークでメニューが手書きされたA型の立て看板が置かれていなかったら、レストランだとは分からないかも知れない。
白を基調とした壁に、黒御影石の階段と、限りなく黒に近いダークブラウンのオーク素材製ドア扉。道に面して大きく取られた窓の枠も黒塗りで。
白と黒のコントラストを上手に使った落ち着いた雰囲気の隠れ家的なたたずまいのその店は、錦帯橋からそれほど離れていない、一本裏の道にあった。
実篤は自社の若い従業員女性の田岡から聞かされてここの存在を知ったのだけれど、くるみは配達で横山をちょくちょく流している関係でずっと気になっていたらしい。
「ランチタイムになったら結構人が入っていらっしゃるんですよ」
生成りのテーブルクロスが掛かった席に着座するなり、くるみがほんの少しこちらに身を乗り出すようにして小声で実篤に話しかけてきた。
店を入ってすぐの所に用意されたコート掛けに上着を脱いで掛けたくるみは、ボリュームそでのくすみピンクのニットに、ふんわり膨らんだ亜麻色のAラインフレアスカートを合わせていた。
ほんのちょっとたくし上げられたニットのそで口から、くるみのほっそりとした手首が覗いている。
ふわりと大きく広がったそでのデザインと相まって、それはドキッとするぐらい色っぽく見えた。
耳元には過日実篤がくるみにプレゼントしたエメラルドのイヤリングがキラリと光っていて、〝彼女は俺のもの〟と主張出来ているようで何だか嬉しい。
テーブルに載せられたくるみの小さな手を見るとはなしに見て、あのほっそりした指に今から自分が渡すダイヤの指輪がはまる所を想像してにわかに緊張してきてしまった実篤だ。
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