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「これ、口に入れたらジュワッと甘いんが染み出してきてめちゃめちゃ美味しいですね」
くるみが実篤の目の前。うっとりと目尻を下げて、とても嬉しそうに口元を綻ばせている。
その笑顔が可愛すぎて、実篤はフォークにケーキを刺して持ち上げたまま思わず見惚れてしまった。
いま食べているババ・オ・リューム。
食べる直前にラム酒を回しかけるのは飲酒するアテがない人間に対してのみのサービスで、車に乗る予定がある客には煮切ってアルコール分を飛ばしたものを使用するらしい。
「そう言やぁ実篤さん、凄い飲んじょってように見えますけど大丈夫ですか?」
ぼぉっとくるみに魅入ったまま動かなくなってしまった実篤に、くるみはてっきり酔いが回ったと思ったようだ。
心配そうな顔をして実篤の方をじっと見つめてくる。
その視線にやたら照れてしまってタジタジの実篤だ。
「いやっ。全然酔うちょらんのよ。ただ……」
――滅茶苦茶緊張しちょるけん。
そう続けようとして「何に?」と問われたら絶体絶命のピンチだと訳の分からないことを思ってしまった実篤は、不自然に視線を揺らせてくるみに要らない心配をかけてしまう。
「今日の実篤さん、ずっと心ここにあらずな感じじゃったし、ひょっとしてどこか具合が悪いとかじゃ……」
そこでハッとしたように「もしかして今日予定より早よぉ帰れたんもそのせい?」とか言い始める始末。
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