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実篤はコートの中からお目当てのものを取り出すと、くるみが中腰のままうつむいているのに気が付いた。
(……くるみちゃん?)
まさか自分の行動が彼女をめちゃくちゃ不安にさせてしまっただなんて思いもよらないまま、とりあえず。
くるみに集まった視線を牽制するみたいに睨みをきかせながら席へ戻った。
そうしてくるみのそばまで行くと、そっと彼女の肩に手を載せてくるみを着座させて。
自分はそのまま彼女のそばにひざまずく。
下から見上げたくるみの目からポロリと涙が頬を伝うから。実篤は親指の腹で彼女の涙をそっと拭って「俺の不手際のせいで不安にさせたね。……ホンマこんな時までしまらん男でごめん」と謝った。
「これ、なんじゃけど――」
言って、ぱかりと指輪ケースのふたを開けると、胡乱気な表情で実篤を見詰めるくるみに、ダイヤの付いた婚約指輪を見せる。
「スーツのポケットに入れちょるつもりじゃったんじゃけど……コートの方に入りっぱなしになっちょったんよ」
それを取って来ただけだと示唆してから。
「こんな時までグダグダでカッコ悪うてホンマごめんね。じゃけど……くるみちゃんを思う気持ちだけは誰にも負けんつもりじゃけ。俺、心の底からくるみちゃんと家族になりたいって思うちょるんじゃけど……どうかな? ……なって……くれる?」
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