10.親の欲目というやつ

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*** 「もぉ、連史郎(れんしろう)さん、最高じゃないですかっ」  両親との電話のことが――というより主に父からの暴言?が――忘れられなくて。  翌日クリノ不動産横の駐車場へパンの配達に来てくれたくるみのそばまでツツツツツ……と近付いてぼそりと愚痴ったら、目尻に涙を浮かべられて笑われてしまった。  父・連史郎を褒められるのが何となく面白くない実篤(さねあつ)は、「くるみちゃんっ、笑いごとじゃないけぇ」とムスッとする。  ぼそぼそと、小声で互いのすぐ真横(そば)。  パンを選んでいる客たちには聞こえないぐらいの微かな声音で話している二人だ。  必然的に距離がグッと縮まって、止まり木に寄り添う小鳥みたいにくっつき合っている。 「きな粉フレークパンと、クリームパン、それから抹茶シフォンを一つずつ」  客が、棚に並ぶビニール袋で個包装された手こねパンそばに取り付けられた(プレート)を指さしながら注文するのに対応して、くるみが一つずつパンを棚から取り上げては平べったいカゴによけていく。
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