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「これでお間違えないですか?」
くるみが客に確認を取った後のパンを、会計作業をしている彼女のそば。
実篤は『くるみの木』と言うロゴスタンプが捺されたマチ付きの茶色い紙袋へつぶさないよう丁寧に入れていきながら、笑顔で接客をするくるみの横顔を眺める。
最近ではくるみが駐車場へ来ている間は、こんな風に使い捨てのビニール手袋をして手伝っていたりする実篤だ。
最初のうちこそ「悪いです」とオロオロしていたくるみだったけれど、最近はこうやって二人で並んで作業するのを案外気に入ってくれたように見受けられる。
妻が夫を助けるのを「内助の功」とか「鶏鳴の助」とか言うらしいが、夫が妻を支えるのは何というのだろう。
そんなどうでもいいことを考えながらも、くるみの手伝いをするこの時間が嫌いじゃない実篤だ。
そもそも、元々実篤の本業は不動産屋。
接客ありきの仕事なのだから人と接するのはそんなに苦ではない。
ただ、自分が余り前に出ると客を怖がらせてしまうかもしれないので、あくまでも裏方。
くるみのサポートに徹することを心掛けている。
一旦客がはけたところでくるみがすぐ横に立つ実篤を振り仰いで、思い出したようにくすくす笑うから。
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