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「そう言えば実篤さん、十五夜の日は何か予定がありますか?」
車に乗り込んで次の配達先に移動するぞという段になって、くるみが窓を開けてそう聞いてきた。
「――? それっていつじゃっけ?」
恥ずかしい話、実篤は大人になってからこの方、そんなものを意識したことがない。
ラジオやテレビからやれ中秋の名月だなんだのと聞こえてきても、基本的には右から左。
九月のどこかがそれなんだろうと漠然と思ってはいても、別に何をするわけでもないから明確に何日かとか気にしてもいなかった。
子供の頃は、母親が団子をこしらえてくれて、家族みんなで(それこそ月なんてお構いなしに)貪り食らった覚えはある。けれど、十五夜の思い出なんてそれぐらいの実篤だ。
「今年の十五夜は9月21日です。ちょうど火曜日でお天気も良いみたいですけぇ……」
そこまで言って、くるみはちょっとだけ躊躇う素振りを見せるように視線を彷徨わせてから、意を決したように実篤を視界に捉えた。
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